「で?ルカちゃん・・だっけ。どうしてあんな所にいたのかな?

町の人はあそこから離れていたはずなんだけどな。」

サクラさん・・・ルカさんは目覚めたばかりなんだから、そんな話は後でもいいのに・・・。

そんなリョウの視線に気づいたのかサクラはにっこり笑う。

「ごめんごめん!僕、気になったことは聞かないと気がすまないんだ。」

しかし、ルカは特に気を悪くした素振りはない。

「はい・・逃げようと思ったんですが途中で苦しくなってしまって・・。

しゃがみこんで座っていたら、突然凄い重力が体に。あの力って一体・・・。」

サクラの能力だ。思わずリョウは体を固くする。

「きっとあの兵士たちの力だと思うよ〜。ほら、奴ら変な力使うしさ。」

・・・サクラさん・・・。

飄々と話すサクラにリョウは内心ハラハラだ。

ルカがサクラが力を使う瞬間を見ていないことが幸いだった。

サクラが超能力者だと知ったらルカがどんな反応をするか分からない。

 

ルカはカップにお茶を注いで2人に手渡した。

優しい香りがするお茶だ。

心が落ち着く。

何かの薬草を煎じたお茶だろうか。

「そういえば! まだ名前を聞いてませんでした!改めまして、私はルカ・ネオタールです。」

助けてくださってどうもありがとう、そう付け加えた。

「僕はリョウ・コルトット。こっちはサクラ・セオドリオールさん。」

サクラもお茶をすすりながら頭を下げる。

「リョウって呼んでよ。」

そう言ってリョウは笑う。

やっぱり村の習慣、つまりは下の名前で呼び捨てすることは染み付くものだ。

レオナは呼び捨ては抵抗があったみたいだが、彼女はどうだろう・・・。

「・・・じゃぁ、そう呼ばせてもらうね、リョウ。私の事もルカって呼んで?」

彼の言葉に特に動揺した様子もなくルカは微笑んで手を差し出した。

 

「うん!」

 

その様子を見ていたサクラは口元だけ笑う。

リョウ君、村の友達と別れて寂しかったんだろうな・・・。

自分と旅をしていてもやっぱり歳の差はあるものだ。

遠慮も多少あるのだろうか。

やはり自分と同じ年齢位の人間と話せて嬉しいのだろう。

 

「それにしても馬車の中って結構暑いんだね〜!」

そう言ってサクラは服の袖をめくる。

同時に彼の腕にある十字架の痣がしっかり見えた。

「さ、サクラさん!!!」

慌ててリョウは声をかける。そんなに誰にでもその痣を見せていいという訳ではない。

ZEROの手下はその痣を持っている人物が「歯車」だと知っているのだ。

ルカがそうでないのはもちろん知っているが普段からこう見せていては、いざというときに困る。

ZEROの手下が紛れている場所でこんな事をしたら・・・。

恐ろしい。

リョウは思わず頭を強く振った。

しかし、ルカはその痣を食い入る様に見つめていた。

「ルカ・・・?」

十字架の痣が珍しいのだろうか。

確かに珍しいものではあるが・・・。

「え?ああ・・、うん・・。その痣、十字架の形?珍しい・・・。」

「まぁね〜!特別な痣なんだよ! 羨ましい?」

「サクラさん・・・。」

羨ましいって・・・・。

それを持っているからZEROの手下に狙われるんだから・・。

痣はかっこいい、正直。

でもこれと命を計りにかける気にはなれない。

「そんなに・・特別なものなんですか?」

どうやら興味を持ってしまったらしい。

ルカは身を乗り出してサクラに聞く。

「おうよ!僕たちはこの痣を持ってる人物を探して旅をしてるんだよ。僕と、もう一人いるはずなんだ。」

 

そうサクラが言ったときだった。

 

 

「私、知ってます・・・!」

 

リョウ達の後ろから声がした。

振り返ると先ほどルカを出迎えた金髪の少女。

 

「私、その十字架の痣を持った人、知ってます・・・・。」

 

 

第十四章〜ルーゲ:Luge〜 Fin